オリジナルのエンターテイメント作品を作り出す監督としてファンも多い内田けんじの3年ぶりとなる最新作『鍵泥棒のメソッド』!! 主演の桜井を演じるのは、前作『アフタースクール』に続いての堺雅人。情けないけどなんだか憎めない男を好演。内田けんじ監督ならではの、先の読めないサスペンスフルな展開に、笑いを織り交ぜ、映画本来の面白さが詰まった作品だ。
今回、公開前のキャンペーンで堺雅人と内田けんじ監督が来名。撮影エピソードを語った。
無計画で出たとこ勝負なところが桜井と似ているのかも(堺)
▷▷『鍵泥棒のメソッド』のストーリーはどうやって生まれたんですか?
内田監督(以下:監督)「今回は楽しいポップな映画が作りたいという外側の欲が最初にあって、1つの大きなテーマとして結婚がありました。それで今の日本でスクリューボール・コメディ、ロマンチック・コメディを作るとしたらどんな話になるのかを考えました。でもわかりやすくて面白い設定がなかなか作れず、全く関係ないホン(脚本)をいっぱい書いたんです。その中で桜井(堺雅人)、コンドウ(香川照之)、香苗(広末涼子)のキャラクターが出てきて、この3人にすごく愛着が湧き、離れられなくなってしまったんです。その後も、この3人の関係性を上手く乗っけられるストーリーを考えて、何度も何度も書き直していく中で、コンドウが記憶を失っているうちに人生が入れ替わるとアイデアを思い付いたんです」
▷▷結婚というテーマと、2人の人生が入れ替わる設定を合わせるのは難しかったのでは?
監督「本当に難しかったです。『アフタースクール』『運命じゃない人』のように構成をいじくって、映画の外側をコントロールすることにはもう脳が疲れていたので、今回は起承転結が面白いお話を作りたいと。シンプルなロマンチック・コメディじゃなく、サスペンス、ミステリーの構図のど真ん中にロマンチック・コメディを隠すようにして、お客さんを引っ掛けたいと思いました」
▷▷堺さんは脚本を読んでどう思いました?
堺雅人(以下:堺)「内田監督の作品は『アフタースクール』に続いて2度目ですが、前作は話が込み入りすぎて1回読んだだけではよくわからなかったんです。でも今回は1回でよくわかりました!最後までハラハラドキドキして、エンドロールが終わるまで目が離せないところは監督らしい面白さですけど、あえてシンプルにしたところに、3年間の変化を感じました」
▷▷売れない役者の桜井には共感できました?
堺「俳優ってマジメに考えていたらできない職業だと思うんです。今回の現場でも、香川さんはお風呂での転び方に頭を悩ませ、裸に前バリ1つで精神統一していましたからね(笑)。桜井は売れていない役者ですが、根本は変わらない。普通の人から見るとちょっと可笑しいところ、ぼんやりした感じも含めて、親近感が湧きました」
▷▷映画のタイトルにかけて、堺さんが実践している演技メソッドを教えてください!?
堺「メソッドを持たないのがメソッドかな。現場によってやり方が違いますから。そんな無計画で出たとこ勝負なところも、桜井と似ているのかも知れませんね」
▷▷では今回の役作りはどうやって?
堺「この作品の前にちょっと体を絞っていたので、太るようにはしました。裸になるシーンがあるので、ちょっとだらしない体の方が面白いだろうと思って。ただ今回は取材でお話しすることがないぐらいスムーズで平和で何事もない現場だったんです」
香川さんがコケて浮いた時のお尻の位置合わせでデフォルメしました(監督)
▷▷お風呂場のシーンはとても印象的でした。アイデアはどこから?
監督「お風呂場で素っ裸の状態で荷物もアイデンティティも同時に失うというのは、僕が桜井と同じようなアパートに住んで、風呂屋に通っていた20代の頃から、いつか使えないかなとずっと持っていたアイデアなんです」
▷▷そのアイデアを映像化するにあたってこだわったところは?
監督「今回は『アフタースクール』より、キャラクターもお話も全てデフォルメ感をあげた世界にお客さんを連れて行きたかったんです。そのデフォルメ感の位置が、香川さんがコケて浮いた時のお尻の位置なんですね(笑)。あのシーンでお客さんにこういう映画ですよと教えたかったし、香川さんのお尻合わせですべてのキャラクターのデフォルメ感を上げていきました。『少林サッカー』まではいかないけれども、現実よりは上がているって感じかな(笑)」
堺「非常にわかりやすいガイドですよね。広末さんは最初、香川さんのお尻の位置合わせっていうことにぽかーんとしてましたけど(笑)。しかも、あれワイヤーじゃないところがすごいんですよ」
監督「石鹸でコケるシーンを撮るのに、大の大人がよってたかって努力する。本当に映画作りの面白さを感じました」
▷▷殺し屋のコンドウが売れない役者の桜井に演技指導をする場面では、香川さんと堺さんの演技の掛け合いが本当に面白かったです。撮影はいかがでした?
堺「あのシーンは香川さんのリードで演じました。“てめぇ”というセリフは僕が足したんだったかな」
監督「堺さんが“てめぇ”ってやっている時の顔は、香川さんにしか見えないんですけど、ものすごい顔をしていたらしくて“ふざけんなよ!”って言ってました(笑)。香川さん、必死で笑いをこらえているんですよ。あのシーンは本当に面白くて、スタッフもみんな笑いをこらえていて。面白いから何回もやってもらったんです」
堺「そうですよね。面白いからもう1度って(笑)」
監督「5回ぐらいやってもらいましたけど、全部違った意味で面白くて。その中から選ばせてもらいました。役者さんが実際に動いてやってくれると、机の上で頭で考えても絶対浮かばないアイデアがポッと出てくる。そこが映画を作っていていちばん面白いところなんです」
堺「それを監督がちゃんと拾ってくださるからありがたい。自分が気付かずにやったことが手柄になるなんて最高ですよ。内田監督の現場は本当にハッピーで楽なんです」
▷▷恋のトキメキを表わす「キューンと鳴るマシン」が、30才を過ぎると壊れてあまり鳴らなくなるというセリフに、共感する女性は多いと思います。男性としてはどうですか?
監督「女の子ほど完璧に壊れないけど、男もあると思います。ただ男が鳴らなくなるのは、女の子と違って自分に自信が無くなっていくからじゃないかな。昔はあの子、可愛いなっていうだけで無邪気に惚れられたけれど、だんだん自分がわかってくると、恋の可能性を感じないと好きにならない。防御装置が働く感じ。だから壊れているというより、聞こえないフリをするみたいな。まあ40才になってあまりキューンキューン鳴られても困るし(笑)。いい感じで壊れてくれるといいですけど(笑)」
堺「僕は信号が届かないのか、生まれてからあまり作動したことがないんです!きっと子供の頃から生物として自信がないんでしょうね」
▷▷恋のトキメキ以外で鳴ることは?
監督「僕はいっぱいあります。映画を観ていても女優さんに鳴りますし、広末さんや森口(瑤子)さんを撮影している時でも、聞こえるんじゃないかと思うぐらい鳴ってましたよ(笑)」
堺「美味しいご飯にワーッとなることはありますけど、トキメキとは違うんですよね。監督は今も昔もよくトキメイている方なので、羨望の眼差しで見ていました」
▷▷監督のような人は羨ましい?
堺「恋を語れる人は、生物的にちょっと優位な人なんじゃないでしょうか。体に自信があるからこそ、体の声に耳を傾けられると思うので。30代になると恋をしなくなると言われるのは、体の声に耳を傾ける余裕が無くなり、頭で体をコントロールしようとするからだと思います。劇中でも婚活というのが出てきますけど、恋、結婚、生殖と、本来は体でやることを、頭で計算してやろうとするところに矛盾と可笑しさ、難しさと面白さ、日本の喜悲劇がありますね」
監督「なんだか最後はお坊さんの説教みたいになってましたね(笑)。堺さんは修行僧みたいな人なんですよ(笑)」
▷▷では最後に、映画のように人生を入れ替われるとしたら、どんな人と入れ替わりたいですか?
監督「僕はコンドウと同じように、役者になって監督に演出を受けてみたいです。監督が演出することで役者にどう影響を与えるのか、どういう事を言うとわかりやすいのか、混乱するのか。客観的に演出を受けてみたいです」
▷▷俳優ならいつでもできそうですけど?
監督「絶対無理です!カメラの後から見ているのが大好きなので(笑)。だからこそ1度、役者さんとして演出される経験をしてみたいんです」
堺「役者は大抵の人になれる可能性がありますから、僕は役者でもなれない人と変わってみたいです。女の子とか、メスのアザラシとか、石とか……。うーん、黒人のラッパーとかいいかも知れないですね(笑)」


★『鍵泥棒のメソッド』9/15(土)→109シネマズ名古屋ほか
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