本作『脳男』は、“何が悪で何が正義か?愛とは?心とは?”というキーワードを投げかけ、観る者の感情を大きく揺さぶる戦慄のバイオレンスミステリー超大作!
生まれつき並外れた記憶力・知能・肉体を持ちながら、しかし人間としての「感情」を持たない美しき殺人者 ―彼の名は“脳男” を演じるのは『人間失格』の太宰治作品から『源氏物語 千年の謎』での光源氏、『僕等がいた』(前篇・後篇)での悩める青年役など、其々の作品で非凡な才能をみせる生田斗真。爽やかな印象の強い彼だが、この作品では無表情、無感情、そして絶対的正義を遂行するため殺人をも厭わない“脳男”鈴木一郎というダークな難役に初挑戦し、俳優としての新境地を切り開いた。
原作は、2000年9月に刊行され第46回江戸川乱歩賞を受賞した首藤瓜於(しゅどう うりお)による同名小説。発刊当初から高い評価とその独創的な内容から数多くのファンを生み、現在までで31万部を突破したベストセラーだ。メガホンを取ったのは、『犯人に告ぐ』『イキガミ』『星守る犬』と人間ドラマを力強く演出することで定評のある瀧本智行監督。脚本は、昨年日本アカデミー賞をはじめ各賞を総なめした『八日目の』の監督・成島出が担当し、撮影監督には、ロバート・アルトマン作品などで知られる栗田豊通をハリウッドから招聘。今回の撮影では最新のデジタルシネマカメラを用い、DIT(デジタルイメージングテクニシャン)スタッフを撮影現場に配置し、データ管理とカラーマネジメントを、撮影監督との連携により確かな基準作りを行っている。またアメリカ映画芸術科学アカデミーが策定した色管理「ACES規格」に準拠した、デジタル撮影現場向け色管理システム、富士フィルムが開発したIS-100を劇場映画としては世界で初めて使用。リアルタイムに正確なデジタル現像/現場ラッシュ試写環境を実現し、撮影監督の意図するクリエーティブな画作りに寄与した結果、世界に通用するハイクオリティな映像表現が実現した。
またこの異色の作品のエンドを飾る主題歌として、あの伝説のロックバンド、キング・クリムゾンの永遠の名曲「21世紀のスキッツォイド・マン」を使用。独特の音楽的手法や思考法で世情の不安を切り取る主題歌にのせ、「脳男」が観る者の記憶に深く刻みこまれる。
今回、公開を間近に控えた2月4日(月)にキャンペーンで主演の生田斗真と、瀧本智行監督が来名。本作の見どころ、撮影エピソードを語ってくれた。
※生田斗真の写真は、WEB掲載禁止のため使用しておりません。
現場で生田斗真くんが演じる鈴木一郎を見ながら理解していった(監督)

▷▷“脳男”に生田さんをキャスティングされた理由は?
瀧本智行監督(以下:監督)「日常的なお芝居、等身大の役どころを演じる人はいるけれども、この映画のキャラクターはちょっと特殊ですし、様式をきちっと演じてもらいたくて。様式美みたいなものを演じられる若い俳優さんは、生田さんしかいないなと。『人間失格』や『源氏物語 千年の謎』の生田さんを見て、きっちりと存在感を発揮できる希有な役者だなと思っていたので、ぜひにとお願いしました」
▷▷生田さんは特殊なキャラクターである“脳男”を演じることをどう思いました?
生田斗真(以下:生田)「初めて台本を頂いた時は、“これをどうやって映画化するんだろう”“果たしてこの役を自分がやりきれるのか”と、不安な思いはありました。でも感情がなくて痛みも感じない、天才的な頭脳と強靭な肉体の持ち主という役を演じた俳優は、日本だけじゃなく世界的に見てもなかなかいない。ちょっと怖いけど挑戦してみたい、新しい自分に出会えるかもしれないと希望を持って、瀧本監督に命を預けるつもりでとにかく飛び込んでみようと思いました」
▷▷役作りはどうやって?
生田「台本には“脳男は感情がなく、痩せてはいるが鋼のような肉体の持ち主である”と書かれていたので、外見的に説得力のある体にするために、まず体作りから始めました。幼い頃から人を殺すことを徹底的に仕込まれてきた人間なので、アクションも本物の技術を取り入れたリアルなものにしたくて、格闘技も習いました。役作りは精神的なことよりも外見的なことから入っていった感じですね」
▷▷徹底的に役作りをして、最初のシーンを撮った時の気持ちは?
生田「瀧本監督からは“僕は脳男に対して、ここでこういうお芝居をしてくださいという演出はできません。その代わり撮影現場に生田くんが脳男として存在してくれさえいれば、後は全部押さえていくんで”と言われていました。だからこそ、僕はクランクインの時には脳男としてできあがっていないといけないと。“これで大丈夫かな?”“できるかな?”“いや、できるはずだ”って気持ちが行ったり来たりする、すごくヘンな精神状態でした。でもファーストカットを撮った瞬間に、監督をはじめスタッフの方々がざわつき始めて、“この映画はとんでもない映画になるんじゃないか”“これはいけるぞ!”と、前のめりになる空気感を肌で感じて、不安な気持ちが一気に興奮に変わったんです。そこからはもう迷いなく、脳男として存在できるようになりました」
▷▷監督は撮っていて手応えを感じた?
監督「実はクランクインする前に、衣装もメイクも本番と同じ状態にして、仮のセットを作ってカメラテストで生田くんを撮っていたんです。そこで目をふわっと動かしたりジッと一点を見たり色々なパターンを試して、一緒にラッシュを見ながら“これだとちょっとやり過ぎだよね”とかって話をした上で初日を迎えたんです。生田くんはどう思っていたかわからないですけど、僕はもうその時点で手応えは感じていました。やっぱり得体の知れないものと向き合うのは怖いんでね。彼も迷っていたんだろうけど、僕は僕で迷っていたし怖かったんです。そういう意味では、撮影前の段階で不安がなく、次はこう撮ろう、次はこう撮ろうという風に入れたことは、僕にとっても助かりました」
▷▷撮影に入った時はもう確信があった?
監督「もちろん“イケるぞ!”って確信は持っていました。ただ現場では、実際に松雪(泰子)さんと相対したらこうなるのか、じゃあこう撮ってみようかと探り探りしながら。まさに生田斗真くんが演じる鈴木一郎(脳男)を見ながら、その場その場で色々なことを考え、現場で鈴木一郎を理解していったような感じでした」
自分も見たことのないような一面が出ている自信作です(生田)
▷▷感情を抑える演技は難しかったですか?
生田「今まで数々の演出家や監督に言われてきた“相手のセリフをちゃんと聞きなさい”“人の言葉を聞いてそれに反応しなさい”ということを全部無視して、研ぎ澄まされたごくわずかな表現方法でしか演じられないのは、不自由さはありましたですけど、逆に自由さも感じました。例えば松雪さんが感情的になって“あなた感情があるんじゃないの!?”と言っても、江口(洋介)さんに“ふざけんじゃねぇコノヤロウ!”って言われても、無視していいっていうのは、正直ちょっと気持ちがいい感じがあって(笑)。どれだけ相手の俳優さんがアツくなっても、こっちはこっちの間で淡々とマイペースに返していけるなんてなかなかできないことですからね」
▷▷演じる時に大切にしたことは?
生田「クランクインする前に監督から“脳男は目ですべてを表現しなければいけない。目のチカラを重点的にやっていきましょう”と言われていたので、目のちょっとした輝きとか、瞳孔の動きまで意識して。そういう表現は映画ならではだと思います。ちゃんとお客さんに伝わるのか心配になるぐらい細かい表現ですけど、完成した映画を観て、すべて上手くいっていると実感できました」
▷▷爆破シーンなども迫力がありました。撮影には富山県のバックアップがあったとか?
生田「大規模な爆破シーンやカーアクションは、「西部警察」やATG作品など昭和のドラマや映画ではガンガンやっていたけど、今はなかなかできないですよね。僕はそんな作品に憧れて、ずっと自分もやってみたいと思っていたんです。今回は氷見の市民病院を深夜3時に大爆発させてもらったり、近隣住民の方々がビックリしてニュースをつけちゃうぐらいの規模でやらせてもらえたのは、個人的にも今までにない経験でした。そういう撮影ができたのは、地方都市にあるフィルムコミッショナーの方々のおかげ。映画を思う存分撮れる場所が増えてくれると日本映画の底上げにもなると思うので、もっともっと増えて欲しいなと思いましたね」
▷▷完成した映画を観て感じたことは?
生田「完成した映画を初めて観た時は興奮しましたね。自分が出ている映画ですけど、とんでもないものができたと思いました。観た後も興奮が収まらなくなっちゃって(笑)。江口さんや松雪さんたちとみんなでご飯を食べに行って、あそこよかったよねとか色々な話をしながら、遅くまでいいお酒を呑みました。自分が出ている映画ってなかなか客観的に観られなくて、反省点ばかりが際立ってしまうんですけど、『脳男』に関してはすごいいい映画だなって言える。今までそんなことはなかったですし、それも新しい自分なのかなって思いました。近年は割と恋愛モノや等身大のキャラクターを演じさせてもらうことが多かったですし、ここまでゴツゴツした作品に参加することも、ダークヒーローを演じることもなかったので、自分でも見たことのないような表情をしているシーンもたくさんあって。今までの僕の作品を観てくださっている方々は、こんな表情をするんだ、こういう一面もあるんだと思ってもらえる作品になったと自信を持っています」
▷▷映画のサブタイトルに「永遠に交わることにないそれぞれの正義」とありますが、おふたりが信じる正義とは?
生田「この映画は感情がなくて痛みを感じない男の物語で、実際にそういう症例はあるんですけど、スッと心の中に入ってくる設定ではない、完璧なフィクションですよね。でも観終わった後に、自分が信じている正義って何なんだろう?って、ものすごい現実を突き付けられる。脳男は悪に裁きを下すことが正義だと信じて生きているけど、江口さん演じる茶屋のように、何があっても人を殺めることは正義ではないという考えもあって。それぞれの正義の概念が激しく交差して状態が変わっていくのは、この映画の魅力のひとつ。だから観終わった後に友達なり、家族なりとたくさん話ができるんじゃないかなと思います。僕は撮影中は脳男として存在していたつもりなので、彼の行動は正義だと思っていましたけど、改めて映画を観ると、本当にこいつのやっていることは正しいのか?って気にさせられて。人それぞれの正義は人間にとっての永遠のテーマであると感じました。例えば戦争が起きて攻撃されたら、報復するのはその国にとっての正義だけど、それによって多くの人が犠牲になるのは正義じゃないよね?って思えたり、本当にたくさんのことを考えさせてくれる映画になったと思っています」
監督「生田くんが言ったことと同じになるんだけど、僕は正義というのは相対的なものでしかなくて、永遠に交わることのないものだと思っています。だから戦争はなくならないし、ただその絶対的な正義みたいなものを声高に言う人は嫌いだし、この映画はそういう現状をエンターテインメントというカタチで表現しているんです」
TEXT=尾鍋栄里子





★『脳男』2/9(土)→ミッドランドスクエアシネマほか
(C)2013 映画「脳男」製作委員会