『少年メリケンサック』(2009)以来、4年ぶりとなる宮藤官九郎の監督作。主演に「SMAP」の草彅剛を迎え、エッチな妄想ばかりしている中学生男子が、同じ団地に引越してきた謎のシングルファーザーとの出会いから成長していく姿を描く。タイトルロールにもなっている「中学生円山」こと円山克也を演じるのは、宮藤が脚本を手がけた大家族ドラマ「11 人もいる!」で四郎を演じた平岡拓真。
今回、公開前のキャンペーンで宮藤官九郎監督と平岡拓真が来名!撮影現場でのエピソード、苦労話を語ってくれた。

部活中に服を脱ぐシーンは心の中で泣いてました(平岡)
▷▷主人公の円山克也に平岡さんをキャスティングした理由は?
宮藤官九郎監督(以下:監督)「“何の変哲もない平均的な中学生がすごくおかしなことを考えている”という映画なので、そこら辺にいる中学生にやって欲しかったんです(笑)。それでオーディションで色んな人に会って演技をしてもらったんですが、みんな役者さんだからこう見られたい、こう感じているということをすごく表に出すんです。でも僕はもっと涼しい顔をして変なことを考えている方がいいなと思っていて。平岡くんは見た目は普通だし、なんか無防備だし、自分が思っている中学生にいちばんイメージが近かったんです。それにこの映画は、中学時代は俺もこうだったなと、『中学生円山』=自分だと思いながら観て欲しかったので、そういう意味でもいいなと思いました」
▷▷平岡さんはどんな気持ちで取り組んだんですか?
平岡拓真(以下:平岡)「いい意味で追い込まれてるっていうか(笑)。恥ずかしがってる場合じゃないぞって思える雰囲気を作ってもらえたので、現場にいるうちに恥ずかしさがなくなっていった感じですね」
▷▷キャラクターに共感できる部分はあった?
平岡「そうですね。みんなそうだと思います。共通する部分が多いから、演技する時もいつもの自分を出せばいいだけだったんですけど、ヘンに考え込んで芝居の顔になっちゃって。逆に素の部分を演技に出すのに苦労しました」
▷▷裸になるシーンも多かったですけど、特に大変だったのは?
平岡「体力的なものとか全部含めてなら公園で踊るシーンですけど、精神的にいちばん辛かったのは、レスリングの部活中に服を脱ぐシーンですね。女の子が10人ぐらいいたことも結構キツかったし、男子部員はほとんどが普通にレスリングをやっている、子役じゃない子ばかりで。僕は芝居でやってるのにすごいバカにしてくるんですよ。本当に泣きはしなかったですけど、心の中では泣いてました(苦笑)」
▷▷監督の中学時代の経験は映画に反映されている?
監督「僕は団地では暮らしてないですけど、すごく平均的な普通の家庭に育って。今思えばすごく恵まれたことですけど、当時は退屈でもっと複雑な家庭だったらなとか、ほかと違う家庭だったらいいのにって思ったりして。自分の理想と現実のギャップを埋めるために色んなことを妄想してました。映画での克也のように、自分以外の家族がみんな宇宙人だったらとか、突飛な考えに自ら進んで囚われるような中学時代でしたね。でも取材を受けていると同じように妄想してたって言う人が多くて。やっぱり特別じゃない人の方が多いですから」
▷▷ちなみに今考えるとバカだなと思えるような妄想は?
監督「う〜ん、どれだったら言ってもいいかなあ……」(一同爆笑)
▷▷書ける範囲のものでお願いします(笑)
監督「例えば名字が一緒の友達2人を絶対に兄弟だって決めて、両方ともよく知らないのに、1人はすごい金持ちだけどもう1人は貧乏でって勝手に思ってたりとか(笑)。何の足しにもならないことですけどね。(自分の)子供を見ていると、秘密基地を作ったり、人にわからないようなところで遊んだりする感覚がそれに似てるなって思います。ああ今、妄想の世界にいるんだな、現実ではないものが欲しいんだなって」
難関を突破した映画だから愛着があります(監督)
▷▷シングルファーザーの下井に草彅さんをキャスティングした経緯は?
監督「こういう話なので、役者を想定しないとGOがでなかったんですよ。草彅くんはピッタリではないけども、以前から何を考えてるかわからなくて面白いなって思っていたので、いいかもしれないと。ホンを書いて草くんのところに持って行ってもらったら、まだ全然体制が整ってないのにやるって言われちゃって(笑)。そっから本気になりました」
▷▷実際に仕事をしてみていかでした?
監督「僕は平岡くんを厳しく演出して、何回もやらせていたんですけど、草彅くんは柔軟な役者さんなので、現場の雰囲気や平岡くんの芝居が変わったことでリアクションが変わっていく。だから2人がいちばんいい時を使おうと思っていました。完成した映画を観た草くんは、他の作品ではあまりしたことのない表情が使われてたって言ってました。やっぱり現場では無防備だったと思うんですよね。そこを切り取れたのはよかったんじゃないかな。今思うと下井は草彅くんしかできなかったですね」
▷▷大先輩の草彅さんと共演した感想は?
平岡「思っていたよりも何倍も明るい方で、僕がNGを出した時も、怒られるかなと思ったら、緊張しなくていいよとか、自信持ってやっていいからと言ってくれて。普段はすごく優しいのに、現場に入ると自然に下井になっているみたいな。その切り替えが見られたのもすごく勉強になりました。ご本人からアドバイスをいただいたワケではないんですけど、今回は草彅さんから教わることがいちばん多かったです」
▷▷ミュージシャンのエンケン(遠藤賢司)さんを起用された理由は?
監督「エンケンさんとは昔レーベルが一緒でライブを見に行ったりしていたんです。で、『不滅の男 エンケン対日本武道館』(05)という映画を観た時に、その中の“ド・素人はスッコンデロォ!”って曲がインパクトがあってカッコいいと思ったんですね。ちょっと世代が上だから、今の若い人や僕の作品が好きな人たちはエンケンさんがすごいパフォーマンスをする人だって知らないだろうし、自分の映画に出てもらってあの歌を歌って欲しいと思って。そのためにあの老人のエピソードを考えました。ただ本人にはなかなか言えなくて、ある時に“実は今エンケンさんを想定して役を考えているんです”って話したら、“宮藤のヤツならぜひやりたい”と言ってくれて。その時点ではまだ映画がどうなるかわかんなかったけど、エンケンさんと草くんがやると言ってくれたことだけが支えでした。やるしかないんだ! どうしてもやんなきゃいけないんだ! って。この2人がいいと言ってくれてなかったら、この映画は無くなっていたと思います。最初は本当にしんどかったですけど、難関を突破した作品だから自分も愛着があるし、スタッフも最初から熱量が違ったし、結果、全部いい方に転びましたね」
▷▷企画を通すのは大変だったんですね。
監督「中学生がHな妄想して変なことに挑戦する話ですからね(笑)。いくらオブラートでくるんでも、そこを突っ込まれたら、そうですとしか言えないから(笑)。完成した映画を観ればそういうことだったのかってわかってくれると思うけど、台本だけ読んでもイメージできないみたいで。最初はすごく困難でしたね」
▷▷描いているテーマは深いものを感じますけどね。
監督「いつもそうなんですけど、発端はくだらないことなんですよ。中学生がシングルファーザーに対して、あれは絶対に“子連れ狼”なんだ、殺人事件が起こったらアイツが犯人だって思っている。プラスその中学生が部屋では常に自分のチンコを舐めようとしていて、それを見られてるかもしれないって強迫観念で対峙するっていう。別にテーマも何もない。でもいい歳してそれだけで突破できるワケがないと、人を説得させるためのキャッチーな何かがないとダメだろうと思っていた時に、例えばこういうフレーズ(「考えない大人になるくらいなら、死ぬまで中学生でいるべきだ。」)とかも出てくるんですよね。これが言いたくて映画を撮ったみたいに見えちゃうかもわかんないですけど、どっちかっていうとCGを使わずにマトリックスをやるとか(笑)、そういうことの方が自分の興味の対象だったりするので。ただ脚本家としては正義とか、正しい、正しくないとか、それなりのメッセージを入れとかないとダメでしょみたいな感じのことなんですよね(笑)」
アクションでは人間の体の限界に挑戦した(監督)
▷▷アクションと言えば、体の柔らかさを活かした軟体アクションがスゴかったですね。
監督「あの屋上のシーンは、最後のマトリックスでマトリックス以上のことをやることと、克也は自分から攻撃しない、ただ避けてるだけなのに相手がどんどん弱っていくということが僕の要望でした。後は“コントーション”という柔軟の先生に教わった動きを足しながらやっていって。台本では短いシーンだったんで、アクション担当の辻井(啓伺)さんにビデオココンテを作ってもらったんですが、つけてもらった動きが今の倍ぐらい段取りがあったんです。で、“これを炎天下の屋上で撮影したらヤバイですよ”って言われたので、カメラを2台置いて、間引いて凝縮してやることになった。最終的には2台で撮ったものをほぼ全部使って増殖させました。ひとつの同じ動きを2回使ったりしてるから、すごくしつこい(笑)。いちばん気持ち悪い動きのところなんて、何回も何回もカットバックしてるんで、すごくやってるみたいに見えるんですけどね(笑)」
▷▷アクションは平岡さんが自分で?
監督「部分的には。さすがにあそこまで体は柔らかくないから(笑)。ただCGは弾丸だけで後は人間の動きだけです。人間の動きの限界に挑戦してる。ただそれが平岡くんとは断言できない(笑)」
▷▷でも平岡さんもかなり体が柔らかくなったんじゃないですか?
平岡「なりましたね。団地のエレベーターから下りたところをヤクザに襲われてよけるところは自分でやってます」
▷▷女の子とブリッジするところも面白かったです。
監督「あれも吹き替えなしだもんね。2人ともだよね?」
平岡「そうですね。刈谷(友衣子)さんはもともと新体操をやっていたらしくて、僕より最初からできてました」
監督「そうだよね(笑)」
▷▷ほかにアクションで苦労したこと、こだわったところは?
監督「キャプテンフルーツのアクションはスケジュールがタイトで手数が多かったので、屋上のシーンと同じようにビデオコンテを作ってもらって、助監督が撮りきれるように段取りを考えてくれたんですけど、結局、平岡くんだけ後回しになって2日撮影してたね。縛られてるだけなのに(笑)。あと団地の7階と8階を使ったアクションは、最初やろうと思っていたことが破綻しちゃって、一回持ち帰って、こっちから人が来たらこうでこうでって全部書き起こして、絵コンテにして“これでどうだ!この通り撮ってくれ!”って。アクションをやる上ではそういうことをやりたかったんですよ。あの造りの団地は探すのにもすごく苦労したんです。実は名古屋にも候補があったんですよ。名古屋と神戸と群馬で、結局いちばん近い群馬になりましたけどね」
TEXT=尾鍋栄里子

★『中学生円山』5/18(土)→109シネマズ名古屋ほか
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