インタビュー
インタビュー
主演の妻夫木聡、池松壮亮の2人が来名!
『ぼくたちの家族』名古屋キャンペーン
『川の底からこんにちは』でブルーリボン賞監督賞を歴代最年少で受賞、さらに2013年、『舟を編む』で第86回米国アカデミー賞®外国語映画賞部門日本代表作品にまたしても史上最年少で選ばれるという快挙を成し遂げ、同作は日本の映画賞を総なめにした。今や世界から注目される存在となった石井裕也監督が、20代最後の重要な作品に選んだテーマ、それは自身が描き続けてきた<家族>。今まで観てきたどの<家族映画>とも違う、カッコ悪いけど、不完全だけど、リアルな家族の再生を描き上げる。原作は、注目の新進作家・早見和真が、自身の体験をもとに書き上げた同名小説。「僕自身の話だ」と驚いたという石井裕也監督自身が、脚本を書き上げ、「本気で家族と向き合い、新しい世代の感覚で家族を描きたかった」と語る通り、全力で真剣勝負を挑んだ渾身の一作。長男の浩介を演じるのは、幅広い層から愛されるスターであり、実力派俳優である、妻夫木聡。次男の俊平には、出演作が続々と公開され、今最も期待されている若手実力派俳優の池松壮亮。小さな会社の社長だが、見栄っ張りで頼りない父親を演じた長塚京三。そして、病で天真爛漫になっていく母親に、日本が誇る演技派でありながら、可憐さを合わせもった女優の原田美枝子。
今回、兄弟役を演じた妻夫木聡と池松壮亮の2人がキャンペーンで来名。本作に寄せる想いを語ってくれた。
自分が追いかけてきた兄貴の背中を見せたかった(妻夫木)
▷▷大変な役だったと思いますが、どう演じようと?
妻夫木聡(以下:妻夫木)「自分でもよくわかってないんですよね。浩介になれる方程式があるなら教えてもらいたいぐらい。人間って自分が構築できるほど簡単じゃないし、特に僕はもともと次男で、長男の気持ちは100%わかることはないと思うんです。最初に台本を読んだ時にパッと思い浮かんだのは実際の兄貴の姿。僕はずっとその背中を追いかけて育ってきたから、壮亮がそう見られるように、兄貴の背中になるしかないなと。だからとって何をどうするっていうのは特になく、こう考えたら浩介になるなとか、こうした方がいいかなとか、そうやって考えること自体を否定するというか。考えないと芝居はできないので矛盾してるけど(笑)。自分を失くしていくことが、浩介に近付く作業だったのかなと思います」
池松壮亮(以下:池松)「僕は何もしなくても、妻(夫木)さんが本当に弟にしてくれたんです。それが一番で、後は長塚(京三)さん、原田(美枝子)さんもそこに居るだけで息子にしてくれた。その力が大きいですね。ちょっと感覚的な話しになってしまいますけど、今回は弟の役をやるというより、弟の役割に徹しようと思っていて。妻さんがこの家族を、この映画を背負おうとしてくれているのをみんな見ていたんですけど、僕がいちばん近くで見ていようって。そういう眼差しさえあればいいのかなと。だから1人でいる妻さんに大丈夫ですか?寝れてますか?って(気を遣う)ことはせず、あえて原田さんと楽しくキャッキャッやって、ムカついてんなあって思ったり(笑)。そういう兄弟の駆け引きをしてました」
▷▷演技ではない部分でも兄弟のように?
池松「そうだったと思います。最初はそれぞれの家族が持っているドキュメンタリーの力がわかっているのに、(作り物じゃ)勝ち目ないじゃんって思ってたんですけど、みんなが作り物を超える瞬間を目指していましたからね」
▷▷兄弟の関係性を出すために2人で取り組んだことは?
妻夫木「特にこれをやろうって話し合ったことはないです。でも撮影の初日か2日目にたまたま時間の空きができたので、キャッチボールをしたんです。壮亮が野球をやっていたこともあって、なんだかやりたくなって。それで一緒にグローブを買いに行って無言でキャッチボールしてたんだけど、言葉以上の何かがあることを感じました。後から考えるとそういうことがよかったのかもしれません」
▷▷こうして見ていると、お2人は本当の兄弟みたいですよね。
妻夫木「以前からよくファンの方に似てるって言われてます。このポスターを見ると自分でもちょっと似てるなって思うし。壮亮とはずっと共演したかったし、今回、初共演でガッツリ兄弟役がやれたのは嬉しいことだし、僕自身が末っ子だから本当に弟ができたような気がして、嬉しいことずくめです」
池松「僕は四人兄弟なんですけど兄貴だけいなくて、妻さんが兄貴だなんてもったいないぐらいですよね」
妻さんがこの映画を全て背負ってくれていた(池松)
▷▷演じた役柄との共通点は?
妻夫木「監督や壮亮は浩介みたいだって言うんですけど、僕が自分自身に抱いているイメージは俊平なんです。“責任は負いたくなーい”みたいな感じだから(笑)。浩介は自分の兄貴を見ているようで、本当に兄貴って偉大だったんだ、(自分は)兄貴が大好きなんだなって思うんです。本人には言えないけど。逆に僕は俊平っぽくピエロでいようと思ってましたからね」
池松「石井さんは勝ち戦しかしない人なので、勝算が見えなければキャスティングしないんです。僕は“この役は池松くんでやるから”って渡された原作を読んで“俺だな”って思いましたし、妻さんもそう。取材では“オレは俊平っぽいんですよ。イエーイ!”って言ってるけど、全然そんなことなくて。現場の妻さんを見ればわかってもらえると思うんですけど、この映画を全て背負っていたし、頼み事は何でも引き受けてくれそうでした」
▷▷監督は妻夫木さんについて「しっかり考え、悩んでいる痕跡がくっきりと顔に刻まれている」とコメントしてますよね。
妻夫木「『悪人』がきっかけだとは思うんですけど、自分自身、30歳を超えてもっともっと悩もうと思っていて。どんな役でも苦しんで、苦しみ抜いた結果、絞り出した一滴みたいな。そういう芝居ができたらいいかなって。もしかしたらそういう一面がどっかで垣間見られたのかなと。それってすごく嬉しいことですね」
▷▷でも演じるには大変な役ですよね?
妻夫木「そうですね。毎回こういう役をやれって言われたら参っちゃう。でも色々な役をやらせてもらうことは役者にとって必要ですよね。おちゃらけた役ばかりだったら、こなれた芝居をしちゃいそうで自分も怖いし。石井監督のような“違います”“もう1回”とハッキリ言ってくれる監督のもとで自分を試して、自分も可能性を見ていきたいし。そう感じさせてくれる監督に出会えることは本当に財産ですね」
▷▷特にしんどかったシーンは?
妻夫木「難しいなあ。僕の場合ずっとしんどいですからね(笑)。でも母ちゃんに“アンタ誰?”って言われてのけ者にされ、家に帰ったら嫁さんに“どう思ってるのか話してください”って責められて。(一同笑)あの時がいちばんしんどかったです。言葉にならないぐらい。逆にずっと張り詰めた空気の中で俊平が逆転ホームランを打ってくれて、2人でファミレスで乾杯するシーンは、こんな弟がいて本当に良かったなあって思ったし、兄貴の弱味をちょっとだけ見せられて、初めてホッとしたシーンでした」
▷▷池松さんは、次男としての家族の距離感や気持ちの変化をどう捉えましたか?
池松「僕はホンを読んだ時も完成版を観た時もダメな家族だとは思わなかったんですね。問題のない家族なんてないし、外から見ればキレイな家族でも大なり小なり問題があって、きっとそれぞれが家族に向き合わなきゃいけない瞬間がある。例えみんなが同じ方向を向いていなくても、家族の業の中でつながっていればいいのかなって。(俊平としては)お兄ちゃん助けなきゃ、お母さん助けなきゃっていうのはなんか違う気がして。もちろん俊平が何も考えてないワケではなく、そうしたいけどできないし、もうピエロになるしかなくて。その辺がいいなあって思ったんです」
▷▷俊平と似ているところはありましたか?
妻夫木「占いを信じるところが同じなんでしょ?」
池松「信じます(笑)」
妻夫木「あの勝負パンツの話ししてあげなよ」
池松「(笑)僕は今日勝負パンツを履いてます」(一同爆笑)
妻夫木「どういうヤツなの?」
池松「黒いヤツです」
妻夫木「オレも勝負パンツ持ってるんだけど、クランクインとクランクアップの時に履くよ」
池松「僕は全部黒なんです。毎日、勝負なんです」
妻夫木「それ勝負じゃねぇじゃん!って流れだったんですけど(笑)」(一同爆笑)
みんなが芝居を生きたモノとして捉えていた(妻夫木)
▷▷監督の演出はどういう感じでした?
妻夫木「こうしてくれ、ああしてくれって細かく芝居をつけるのではなく、役者が役に向かえるように事前に色んな種を蒔いてくれてたんです。だからあまり芝居を芝居と考えずに取り組めて。取材で壮亮や原田美枝子さんの話しを聞いていても、みんなが芝居を生きたモノとして捉えてたんだなって感じて。そう仕向けているのはやっぱり監督の演出だと思います」
▷▷何気なく空気を作るような?
妻夫木「そうですね。当然ハッキリ言う時もあるけど、委ねてくれることの方が多くて。ちゃんと人を見てくれているところが好きだし、どこまでもついて行きたいって気持ちになる。そういう吸引力を持った監督です」
池松「家族の話しではあっても、とにかく人間を見つめようとしていたのは普段の石井さんと何ら変わりないと思います。僕らも石井さんも、家族の絆ってやっぱり大切だよねっていうありふれたモノではなくて、家族の業っていうのかな。この兄弟は前向きにお母さんを助けなきゃってなってたワケではなくて、自ずと向き合わなければいけないところまできてしまった。で、兄貴が動き出し、父親が動き出した。じゃあ俺もなんかしなきゃいけないって、打算じゃないところでいつの間にか引っ張られ、必死にもがいた結果いつの間にか光を見つけたという。その作り方は石井さんならではかなと思います」
▷▷特に監督らしさを感じたシーンは?
妻夫木「わかりやすいところでいうと、俊平の心に溜めてたモノが溢れ出るシーンで、(親子)3人で泣いているのを引きのワンカットでずっと撮っていたのは、石井さんらしいと思いました」
池松「作品によって色々だと思うんですけど、今回はワンシーンワンショットというか、カメラはほとんど動かず家族がワラワラ動いているショットが多くて。男らしいというか、潔いというか、僕はすごく好きなんです。今、妻さんが言ったシーンにしても“後ろ姿になっちゃうんでこっち見てください”って言われたら嫌ですし(笑)。石井さんはもう1回って言われてできないことを、映画の奇跡みたいなことを信じてくれてる人。画角に関してはあまりこだわりがなくて、どっから撮っても面白いものは面白い。面白い芝居は面白いってよく言っていて。あのシーンも例えドン引きで撮っても伝わればいいよっていう感じなんですよね」
TEXT=尾鍋栄里子
『ぼくたちの家族』
5/24(土)→伏見ミリオン座ほか
2014年4月24日木曜日