インタビュー
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大泉洋、劇団ひとり『青天の霹靂』インタビュー
お笑いの枠を超えて、作家、俳優と、マルチな才能を発揮する天才お笑い芸人・劇団ひとり(36)。小説デビュー作でもあり100万部超の大ベストセラーとなった「陰日向に咲く」(06)で見事なストーリーテラーぶりが注目を集め、最近では、川島省吾名義の初主演作『ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE』(13)で驚異的なアドリブ力と憑依型の演技力も話題となっている。そして今回、自身の書き下ろし小説第二作目「青天の霹靂」(2010年単行本発売・2013年8/1文庫本発売予定)を、劇団ひとりみずからがメガホンをとり映画監督デビューを果たした。主演は、『探偵はBARにいる』シリーズのほか、三谷幸喜監督作『清須会議』など相次いで話題作への出演が続き近年俳優としての魅力が益々増してきた大泉洋。本作では、売れないマジシャン役を演じ、華麗な(!?)マジックを披露している。初共演となる劇団ひとりが演じる若き日の父・正太郎とコンビ“ペペとチン”(インド人と中国人という設定の爆笑コンビ)を組んで舞台に立つのも、見所のひとつだ。さらに、ヒロインには柴咲コウ。キップが良くて人間味溢れる“芸人の嫁”という難しい役どころを好演。
今回、キャンペーンで主演の大泉洋と劇団ひとり監督の2人が来名。制作・撮影エピソードを、2人の絶妙な掛け合わせトークで語ってくれた。
INTERVIEW
観終わった後に余韻の残る映画にしたかった(監督)
▷▷自身の原作を映画にしようと思ったのは?
劇団ひとり監督(以下:監督)「この原作は東京の四谷にあるマジックバーで、ペーパーローズ(紙で作った薔薇)が宙に浮くマジックに感銘を受けて、これをいつか映画にできたらいいなあと思って書き始めたんです」
▷▷原作、監督、脚本、出演をこなすのは大変だったのでは?
監督「原作、脚本は順を追ってできますけど、監督と出演は同時進行でやらなくてはいけないので物理的には大変でした。でもキャラクター造形は出来上がっていましたし、セリフの言い方は脚本を書いている時からイメージがあったので楽だったかもしれないです」
▷▷監督をするにあたって、特別に準備したことは?
監督「初めてだったことでいうと絵コンテですね。“絵コンテの描き方”みたいな本を買って、見よう見まねで描いてみたけどなかなかイメージ湧かなくて。そこで黒いテープを貼ってシネマサイズにした一眼レフで、色々な角度からフィギュアを撮って、それをiPadに入れてイメージしているカット順に並べ、セリフを言いながらクリックして、イメージを固める作業をしました。最初は家にあったトイ・ストーリーのウッディとバズ(のフィギュア)でやってたんですけど、何をやってもトイ・ストーリーにしか見えなくて。(一同爆笑)女性と普通の男と屈強な男っていう3体のポージングフィギュアを買ってやりました」
▷▷演出でこだわったことは?
監督「なるべくシンプルにしようと思いました。最初は色々なプランを考えていたんです。でも演出のための演出になっている感じがしてきちゃって、考えを改めました。見せたいのはあくまでも物語だから、そこを邪魔するような演出はしないように心がけました」
大泉洋(以下:大泉)「王道でビシッと撮るのは実は難しいことだと思うんですけど、この方は本当に初めてなのかな?っていうぐらい素晴らしいんです。それで今、聞いていたら“演出のための演出”みたいなことを言うからナマイキにと思って。ちょいちょいそういうカッコいいことを言うんですよ。この発言は僕の助言でしたことにして欲しいんですけど」(一同爆笑)
▷▷やはり演出は素晴らしかった?
大泉「役者から見ても過不足がないというか。必要なところでは言ってくれるけど、重たいシーンや大切なシーンではあまり言われた覚えがなくて。監督は自分が見て足りない時に少し演出をするぐらいで、後はなるべく何も言わず自分のプランを超えてくれるのを待つ作業だと仰っていたんですけど、まさにその通り。さじ加減の素晴らしい監督さんでした」
▷▷映画にはどんな想いを込めたんですか?
監督「家族の愛だったり、(主人公の)晴夫みたいにくすぶっている人に前向きになってもらいたいという気持ちはありました。そして漠然としたテーマとしてあったのが、観終わった後に余韻の残る映画にしたいということ。僕はそういう映画が好きなんです。だから観終わった後、その余韻の中で自分だったら何をするとか、誰に会うとか、何を伝えたいとか考えられるような映画になってくれたらいいなと」
大泉「この映画は僕とひとりさんが作ったということで、ただのドタバタ喜劇だと思われたらもったいない。実によくできた台本ですし、ひとりさんが書くセリフが実に素晴らしくてねぇ。泣いてはいけないシーンで涙を流してNGになったのは初めての経験。それくらい切ない物語でした」
▷▷泣いてしまったシーンというのは?
大泉「後半の(母親を演じた)柴咲(コウ)さんとのシーンです。男にとっては自分の母親と話すシーンはグッとくるものがありますよね」
▷▷監督が“青天の霹靂”だと感じたシーンは?
監督「閉館後の雷門ホールで、主人公の晴夫が狼狽するシーンを長回しで撮ったんですけど、その時の大泉さんのお芝居はものすごく迫力があって。何か憑依したようないい芝居でした。それは僕だけじゃなくスタッフ全員が感じていて。色々な現場を経験しているカメラマンが“映画の神が降りてきましたよ!”って興奮気味に言っていましたし、泣き始めるスタッフもいたぐらい。今回の映画の中でいちばん印象的なシーンでした」
コインロールは難しくてできる気がしなかった(大泉)
▷▷晴夫を演じるにあたって、大泉さんはかなりマジックの練習をされたとか?
大泉「マジックをすると聞いてから撮影までは4ヶ月ぐらいあったんですけど、僕はそのすぐ直後に舞台の稽古に入ってしまって、本腰を入れて集中できたのは2ヶ月か2ヶ月半ぐらいで。(練習期間が)短かったんです。だからマジックのシーンはとにかく撮影の最後にしてくださいってお願いして。撮影の待ち時間もずっとコインロールをしているか、トランプをいじってるかでした。さすがに鳩は出せませんでしたけど」
▷▷特に難しかったのは?
大泉「やっぱり冒頭のカードマジックと途中に出てくるコインロールです。コインロールは本当にできる気がしなかったです」
▷▷映画では完璧でしたよ!
大泉「まあなんとかですけどね。僕は大概のことはできるだろうっていう漠然とした自信がある人間ですけど、本当に難しかったです。今はもうできないですもん。あの時はこれを俺の趣味にしよう、いつでもコインロールをできるようにしようと思ったけど、撮影が終わった次の日からもうやらなかったです(笑)」
▷▷晴夫は生きる意味を見つけますが、ご自身にとって生きる意味とは?
大泉「マジメな話しをすると、娘が生まれてからはこの子が1人で生きていけるように、いっぱしの人間にすることが仕事なのかなと。それ以外でいうと、自分は褒められたくて生きていると思うんですよね。この仕事をしているのも結局は“よかったですね”って褒められたいだけで、演技がしたいワケではない。もし公開されない映画を撮りますと言われたら断りますもん。僕にとっては観てもらうことが目的で、それは観た後に“よかったですね”って褒められたいから。薄っぺらですか?」(一同爆笑)
▷▷監督はいかがですか?
監督「僕にも娘がいるので、家族のためってことですかねぇ。後は……日々の生活から嬉しいこと辛いことも含めて受け止めて、ちょっとずつ成長して、自分も1個の作品じゃないですけど、最終的に理想としている自分に作り上げることが目的なのかなと思います」
大泉「なんか今日は随分カッコいいこと言いますね」
監督「今日ね。寝てないんですよ(笑)」(一同爆笑)
大泉「片や俺は褒められたいだけって」
監督「でもそういう大泉さんもステキですし(笑)」
大泉「“理想の自分を死ぬまでに作り上げた方がいいよ”って僕が助言したことにしておいてください」(一同爆笑)
期間限定の“劇団ふたり”を楽しんでます(大泉)
▷▷監督は晴夫の父・正太郎をどうしても自分で演じたかったとか?
監督「正太郎は劇中で謎の中国人チンを演じるんですが、やっぱり中国人は僕がいちばん上手いと思うんです。だから適任じゃないかと」
▷▷中国人をやりたかったから?(笑)
監督「そうです。いつか映画の中で中国人を演じたくて、僕はこの世界に入りましたから」
大泉「アナタが中国人をやるための映画だったんですか!?」
監督「そうです。中国人ザ・ムービーだと思ってます」
▷▷では相方のインド人ペペ(晴夫)を大泉さんに任せたのは?
監督「昔からテレビで大泉さんを見ていて、この人どっかにインド人があるなって」
大泉「ありましたか!?」
監督「ありました。今回は新たな魅力を引き出せたと思います」
▷▷実際にコンビを組んだ感想は?
監督「大泉さんにお願いしてよかったなと思うことが多々ありました。僕はあまりコミュニケーションが上手じゃないので、前半はそんなに話せなかったんですけど、中盤辺りからは一緒に作っている感じで。役者さんに相談するレベルじゃないようなことも色々と相談させてもらって。例えばさっき話した閉館後の雷門ホールのシーンでも、導線や言動に違和感があるか意見をいただいたり。スクリーン以外の部分でもすごくいいコンビだったと思います」
大泉「色々と相談してもらえたのは僕にとってもありがたかったです。すごく真摯に意見を聞いてくれましたし、撮影の数日後には“ありがとうございました”と言ってもらって。漫才のシーンなんかはあまり打ち合わせせずにできましたし、キャンペーンでもひとりさんとのコンビをすごく楽しんでます。期間限定の“劇団ふたり”みたいな」
▷▷もし大泉さんが映画を監督するなら劇団ひとりさんを使いますか?
大泉「使います。で、マジシャンの役にしてすっげぇ難しいことをやらせます! それでまだマジックが上手くできない時に“どのぐらいできるか知りたいので1回見せてください”ってやってもらって、思いっきり“それが限界っすか?”と言いたい!」
監督「アハハハハ」
▷▷大泉さんは褒められるために生きているそうなので、監督からよかった部分を言っていただけませんか?
監督「そうですねぇ。当然お芝居が上手だっていうのはあるんですけども、現場に入れてくれる差し入れが美味しいってことですかね。あれがやっぱほかの役者さんとは食いもんに対してのこだわりが違うのかなと」
大泉「全然、使えない!」
監督「でもそのぐらいしかないんですよ。褒めるところがねー」
大泉「アハハハハ」
監督「マジメな話しをすると、テレビで見ていた大泉さんのイメージで、もうちょっと感覚的な人かと思っていたんですけど、実はすごく理論的な人で。台本を読んで主人公の言動の矛盾点を指摘してくれて、それがすごく的確なので、話し合って本編の方に採用したシーンが幾つかあるんです。そういう意味ですごく助けられました」
▷▷大泉さんからもお願いします。
大泉「さらにこの人の株を上げるんですか!?すでに今日は随分、上がってますよ」
▷▷ではやめておきましょうか。
大泉「いや僕が嫌なヤツに見えるじゃないですか。すごく世間の目が大事な人間なんで言いますよ。(一同爆笑)この映画を観ていただければわかりますけども本当に才能が溢れ出てるなと。ストレートで実に気持ちがいい。監督が目指した通り、観た後にいい余韻が残る映画になっていて。終わり方は意外に感じる人もいるかもしれませんが、僕はすごく好きでカッチョいいと思いました。そしてあのMr.Childrenの曲がかかって、なんていいモノを観たんだろうって思える。欲を言えば作ったのが劇団ひとりじゃなくもっと違うすごい人だったらよかったなと(笑)」
▷▷映画としてとてもよかった?
大泉「自分が出演した映画はなかなか客観的には観られなくて、自分のお芝居をチェックするために観ることが多いんです。今回もマジックのシーンは薄目でしか観られなくて。映画ですから絶対にないとわかっていても、タネがわかっちゃうんじゃないかって怖さがあるんですね。でもこの映画は、入り込めない条件がありながらも集中できたし、のめり込ませてくれた。上映時間もアッという間でありながら1時間半とは思えないほど濃密で。僕はマネージャーなんかと数人で試写を観たんですけど、ちょっと立ち上がれなかったというかね。泣いてると思われるのが嫌で、拭いてるのを見せないように涙を体の中に吸収してから、“よかったね”って普通の顔をして出て行きました」
▷▷監督は映画に手応えを感じていますか?
監督「ハードスケジュールな時もあったんですけど、後で後悔しないようにできることは全部やったつもりです」
▷▷自分の持ち味みたいなモノは掴めました?
監督「初めての監督業だったので勉強になることはいっぱいあったんですけど、いちばんは映画はいい芝居を撮ることが全てなんだということ。脚本、衣装、ロケーション、カメラワークと結局は全部いい芝居を撮るためだけにあるような気がしました。もし今後も撮ることがあったなら、それを第一優先事項としてやっていくべきなのかなと思います」
TEXT=尾鍋栄里子
『青天の霹靂』
5/24(土)→ミッドランドスクエアシネマほか
(C)2014 「青天の霹靂」製作委員会
2014年5月7日水曜日